ロシア語でよく使う挨拶表現

ロシア語に興味を持った人にとって最初の関門は、何と言ってもあの独特の文字ですね。Rが左右逆になったような文字があったり、cを「エス」、pを「エル」と読んだりと中学以来英語に親しんできた我々にとってまるで暗号のような印象を与えるキリル文字。もちろんロシア語をよりきれいに発音しようと思ったらキリル文字を覚える必要があります。ロシア語の発音を表記するための記号がキリル文字ですからキリル文字が読めるということは、即ロシア語が発音できるということにつながるのですから。

ただしキリル文字を最初から覚える必要は必ずしもありません。日本人の赤ちゃんでもそうですが、「ひらがな」や「かたかな」を覚える前に、赤ちゃんは言葉を話し始めます。ロシア語初心者も、まず音から入って簡単な言葉を覚えるのが自然ではないでしょうか?

まずはキリル文字ではなく、カタカナ音で簡単な言葉を覚えてもらい、それが即戦力になるように構成してあります。カタカナ音では正確なロシア語の発音を記述することは難しいですが、基本の挨拶表現などの日常的な語彙の水準であれば、多少の音のずれがあっても言葉は通じるものです。

例えば日本に来ている外国人旅行者の方が、たどたどしい発音、間違ったアクセントで「ありがとうございました」と言ったとき、無視する人はいるでしょうか?我々も多少なまっていても、ロシア語で何か話すぞという意気込みで勉強を始めようではありませんか?これが出来てこそ難関キリル文字に挑戦できるというものです。大学の一般教養の語学でロシア語を勉強したことのある人はキリル文字を読むことが出来ます。社会に出てから年数が経過すれば、文法の多くは忘れてしまうでしょうけれども、いくつかの単語、少なくとも挨拶表現ぐらいは覚えているでしょう。にも関わらず「私は会話程度ならロシア語が出来ますよ」という人にはめったに出会いませんね。

大学の一般教養では、文献を読む力を育成するためのものと語学の授業を位置づけているところが多いですから、会話の練習をあまりしてこなかったのでしょう。でも私たちはこの本で会話から入っていきます。ちょっとした挨拶から、最初はたどたどしてくても。
では基本の挨拶表現を覚えてみましょう。

最初の一言は
プリヴィエート

英語で「Hi」に相当するような軽い挨拶に使います。ロシア語と一言で言っても、広い国土の中にはベラルーシ語やウクライナ語と言った、ロシア語とちょとだけ異なる言葉が沢山存在しています。ウクライナの人は、この「プリヴィエート」と言う言葉で、「こんにちは」「はじめまして」などのきちんとした挨拶表現をしています。一方ロシア共和国では
ズドラーストヴィーチェ

がよりきちんとした挨拶になります。日本語的に言えば「ごきげんよう」にあたるような上品な響きのある挨拶です。

ところで実はこの「ズドラーストヴィーチェ」という長い言葉は単語で表すと一つの単語なのです。ロシア語の発音をより正確に行うためにキリル文字に慣れていってもらいますが、キリル文字で表現してみるとロシア語では一つの単語が非常に長いということに驚かされます。
余談ですが「観光名所」という単語はロシア語ではダスタプリメチャーチリノスチと言います。

ドストエフスキーの小説「罪と罰」はロシア語ではプレストプレーニエ・イ・ナカザーニエと言いますが、日本語では「罪」という漢字一文字で表現できることが「プレストプレーニエ」という長い一つの単語で表現されるのです。

どうしてこんなに長いかと言えば、実はロシア語はいくつもの単語がくっついて複合語を作る力が強く、もともとの短い単語がいくつも合体したり、それに接頭語や接尾語がついたりしていくらでも長い単語が作れるのです。例えば「水力発電所」というロシア語は一語で、ギドロエレクトロスターンツィアと言いますが、「ギドロ」は英語の「ハイドロ」と同じく「水」を意味し、「エレクトロ」は「電気」に関係ありそうだと分かれば複合語だと分かりますね。それにしても長い単語です。

語彙が増えてくれば、このような複合語のもともとの意味も想像できるようになるのですが、初学者ではなかなか難しいですね。挨拶の言葉である「ズドラーストヴィーチェ」の中には「ズダローヴィエ(健康)」と言う言葉が入っているのですが、そこで「ごきげんよう」と私は敢えて訳してみました。

別の言葉も覚えてみましょうか?「おはよう御座います」「こんにちは」「こんばんは」を覚えてみましょうか?

それぞれ
「おはようございます」
ドーブライ・ウートラ

「こんにちは」
ドーブルィイ・ジェーニ

「こんばんは」
ドーブルィイ・ヴェーチェル

無理やりカタカナで表記してみたので、読みづらいかも知れませんが、ロシア語の発音をより正確に表現していますから、はっきりした音で発音してください。「ドーブライ」の「ラ」、「ドーブルィイ」の「ル」、「ウートラ」の「ラ」と「ヴェーチェル」の「ル」は巻き舌音ですから、元気良く巻き舌で発音するとよりロシア語らしくなります。

さて先ほどから説明しているロシア語のフレーズの中で「伸ばす音」が単語ごとに一箇所存在していることに気がつきましたか?これがロシア語のウダレーニエと呼ばれるアクセントなのです。
我々日本人の多くが親しんでいる英語などは「高低アクセント」と言って、アクセントがある母音は少し「高い音」で発音しているのですが、ロシア語は「強弱アクセント」と言って、アクセントのある母音を「長く、強く」発音するのです。ですからどこを「伸ばすか」は発音上とても大切になってきます。

ロシア語の検定試験を受検したいと考えている方もいらっしゃると思いますが、初級水準の試験では、朗読の試験があり、テキストを発音してテープに録音するのですが、発音のチェックでは、ウダレーニエが正確なのかどうかを確認しています。実際に発音するまえにテキストにメモ書きすることは許されているので、間違えないようにまず「ウダレーニエ」をメモして、それを読むと合格しやすいです。ロシア語の発音と言えば「ウダレーニエ」だということは覚えておいてもいいでしょう。

さて発音の話だけでは面白くないですね。先ほどの挨拶表現を見て、勘のいい人は何か気がつくのではないでしょうか?
「おはようございます」
ドーブライ・ウートラ

「こんにちは」
ドーブルィイ・ジェーニ

「こんばんは」
ドーブルィイ・ヴェーチェル

挨拶表現が英語と同じような構造ならばきっと「ドーブライ」や「ドーブルィイ」は「good」の意味の形容詞で「ウートラ」が「morning」、「ジェーニ」は「day」、「ヴェーチェル」は「evening」という意味の名詞ではないか?
そのように考えることの出来た人は大正解です。ただ挨拶の言葉を覚えるだけではなく、このように考えることで他のシチュエーションでも使える形容詞と名詞の知識も同時に獲得することが出来ますね。語学の勉強では日々の精進と言った努力は大切です。しかしこのように「一を聞いて十を知る」要領の良さを身につけることが出来れば、更に学習効率がよくなります。

このサイトでは私が気がついた範囲でこのような指摘をしていくことにしますが、皆さんご自身で「もしかしたら」と思ったら、調べてみることもいつか必要になってきます。このサイトをすべて読み終えたらいよいよその段階ですね。

さて「形容詞」と「名詞」に気がついたところで、「ドーブライ」と「ドーブルィイ」は微妙に形が違っているのはなぜか気になりませんか?
実はロシア語の名詞には女性名詞、男性名詞、中性名詞の三種類があって、それぞれにつく形容詞の形が異なるのです。文法の細かな知識は後で説明しますが、ここでは「ウートラ」は「中性名詞」、「ジェーニ」と「ヴェーチェル」が「男性名詞」とだけ言っておきましょう。名詞に性別があるのは何もロシア語だけではありません。スペイン語、フランス語のようなラテン系語族の言語にも、ドイツ語、オランダ語のようなゲルマン系語族の言葉にも存在します。英語にも昔は名詞の性別があり、「国や船」は「she」で受けることがあるということをもしかしたら高校生の時代に勉強したことがあるかも知れませんね。現代英語では名詞の性別(文法的な性別という意味で「文法性」といいます)が退化しているだけなのです。頭の片隅においておきましょう。

簡単な挨拶表現を覚えたところで次に自己紹介でもしてみましょうか。
「私の名前は鈴木太郎です。」をロシア語で言うと次のようになります。
ミニャー・ザブート・ターロ・スズーキ
「ミニャー・ザブート」の次に名前を言えばいいのですね。覚えればすぐに使える表現です。ただし気がつきましたか?「イサーオ・スズーキ」と不自然な長音がありますね。これはどうしてでしょうか?

ロシア語では「ウダレーニエ」が大切です。ロシア人と友達になると「あなたの名前はどこにウダレーニエがあるの?」と質問されたりします。もちろん日本語にはウダレーニエ(強弱アクセント)はないのですが、ロシア人としては「相手の名前を正しく発音しないと失礼にあたる」と感じているのでしょう。一般に日本人の名前にウダレーニエを付けるときには伸ばして発音したときに不自然さが一番すくないところにつければOKです。もともと日本語にはウダレーニエは無いですから、難しく考えずに発音しやすいように発音すればいいでしょう。「タロー」よりも「ターロ」の方が違和感が少ない、「スーズキ」や「スズキー」よりも「スズーキ」の方が不自然さが少ないということでこの例文ではこのようにウダレーニエをつけてみただけです。

相手の名前も聞いてみましょうか?「あなたのお名前は?」はロシア語で次のように言います。
カーク・ヴァース・ザブート?
疑問文ですね。ちなみに「カーク」というのは英語の「how」に相当するロシア語の疑問詞です。ロシア語で「はい」「いいえ」で答えられない疑問文は、語尾を下げるように発音します。
これは英語と同じ感覚ですね。これで名前を尋ねることが出来ますね。

さてこのように質問すると相手は名前を教えてくれるのですが、ここでロシア語の名前の規則をちょっとだけ勉強してみましょう。ドストエフスキー(ロシア語的には「ダスタイェーフスキ」)の小説「カラマーゾフの兄弟」の中には長い名前が沢山出てきます。私も高校時代にはドストエフスキーの小説にかなりはまったのですが、「ロシア人の名前は長い」と言うことが最初に覚えた知識でしたね。例えば
アレクセイ・フョードロヴィッチ・カラマーゾフ
という人の名前がこの小説に登場するのですが、「アレクセイ」は日本語で言う「下の名前」、英語で言う「ファーストネーム」です(ロシア語では「イーミャ」と言います)。「カラマーゾフ」は日本語で言う「姓」ですね。(ロシア語では「ファミーリア」と言います)そして真ん中に挟まっているのがロシア系の人たちに特徴的な名前の構造、「父姓(ふせい)」です。

「フョードロヴィッチ」とは「フョードルの子ども」という意味なのです。これが「アレクサンドルの息子であるフョードル」ならば
フョードル・アレクサンドロヴィッチ
ですし、「イワノフの息子イワン」だとすると
イワン・イワノヴィッチ
となります。「何とかヴィッチ」というような名前は聞いたことがありますね。是には意味があったのです。このことを知っていると少しはロシア小説に登場する人物の名前を覚えやすくなるのではないでしょうか?

ところで簡単な挨拶の言葉を覚えた後に名前を相手に尋ねたのですが、人の名前を尋ねるのは初対面のときですよね。「はじめまして」に当たる簡単な言葉も覚えておきましょうか?
オーチン・プリヤートナ
と言います。ロシア人の方と知り合いになる機会があったとき、最初の一言として
オーチン・プリヤートナ
ミニャー・ザブート・ターロ・スズーキ(実際にはあなたの名前)
と言ってみましょう。

懸命に自分の国の言葉を話そうとしてくれている日本人のあなたに相手のロシア人は感動することでしょう。そしてあなたは初めて話すロシア語が通じた喜びを胸に勉強が一層はかどることでしょう。英語でも何でも、語学の勉強のモチベーションはこんなところで高まります。

中学生の時、「ハロー」の一言がアメリカ人に通じたときに嬉しくはなかったでしょうか?大人になるとおうおうにしてこの純粋な喜びを忘れがちです。でも言葉はコミュニケーションのためにあります。通じてこその外国語なのです。

さていろいろな言葉を覚えてもらいましたが、最後に「さようなら」に当たるフレーズを覚えてもらいましょう。
ダ・スヴィダーニャ
どこかで聞いたことがある人もいるのではないでしょうか?「スヴィダーニャ」の「ス」は「ダ」と「ヴィ」という濁音にはさまれているので、「ズ」に近いことに聞こえます。そこで
ダ・ズヴィダーニャ
と書いても間違いではありません。より正確なところはキリル文字を覚えてもらってから説明することにしましょう。まずはカタカナ音であってもここで説明している範囲であれば十分に通じますからご安心を。

さてでもどうしてもこの言葉が覚えにくい人がいたら、最後の手段です。一番短い言葉で「さようなら」を表す単語を伝授しましょう。
パカー
「じゃあね」くらいの意味で使う言葉で、仲間内で使います。間違っても「馬鹿」にならにならないように。最初の音は「バ」ではなくて「パ」ですからご注意を。

サブコンテンツ

このページの先頭へ